フォックスコン連続飛び降り事件(その4)

もうしばらくは書かないつもりでしたが、事件が意外な進展を見せたため、もう一度追記してみます。

本当はそろそろ広州生活について書きたいところでしたが、ここまで書いたのでもう少し更新。

結論から言うと、本件には報道規制がしかれた模様です。

ここ三、四日、関連報道が無くなり突然静かになったなと思っていたのですが、昨日「南方都市報」の特集ページを見に行くとなんと消滅。

仕方が無いのでサイト内検索するも、本ブログ記事で紹介したリンク先も含めて、ここ数日の記事が消えている。ネットで検索するも、他のメディアもだいたい同じような状況です。

そこで、さすがにもしやと思い検索したところ、報道規制に関するニュースを発見。日本でも報道されたようですね。

本事件については、政府系の新華社通信の記事を使うこと、あまり大きく取り上げないこと、センセーショナルに取り上げないこと、と指示が入った模様です。

(日本語)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/100528/chn1005281322002-n1.htm
(上記記事のネタ元(英語))
http://www.flickr.com/photos/micgadget/4649183155/sizes/o/in/photostream/

http://www.scmp.com/portal/site/SCMP/menuitem.2af62ecb329d3d7733492d9253a0a0a0/?vgnextoid=aa0ca743aaad8210VgnVCM100000360a0a0aRCRD&ss=china&s=news

もっとも、報道規制は報道が加熱していた先週にもすでに存在していたようです。上記サウス・チャイナ・モーニング・ポストの記事によれば、あるレポーターは先週だけで4度も記事の差し止めをされたとのこと。また、前回記事で引用した郭台銘フォックスコン総裁の26日の記者会見についての「南方都市報」記事についても、当局から指示が入ったと書かれています。

実態としては、先週一週間の動き(10回目、11回目の自殺、海外を含む報道の過熱)等を受けて、当局が規制を一段と強めたということなのでしょう。

そういえば、当局の報道規制との関係は不明ですが、フォックスコンの郭台銘総裁は26日の記者会見にて、「メディアには「次の自殺がいつ起こるのか?」というような書き方をしないでほしい、そのような報道はウェルテル効果をもたらす可能性がある」と述べていました。
(ウェルテル効果)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%86%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C

ちなみに、すべてのニュースをフォローしている訳ではもちろんありませんが、私が新聞やネットで見ていた限り、「次の自殺はいつおこるのか?」などと書いた記事は見たことがありません。

南方都市報を含むリベラル派新聞・雑誌を発行している南方報業メディアグループのHPを見ると、5月27日付けで、「フォックスコン「○連続飛び降り自殺」、飛び降りの毎に報道する必要べきか(富士康“×連跳”自殺、媒体該不該“有跳必報”?)」という記事を載せています。(おそらくネット上のみの記事)
http://nf.nfdaily.cn/huati/content/2010-05/27/content_12322666.htm

当該記事では、最後の段落で、「メディアが社会の負の側面を報道する際には慎重で無ければならない。しかし、人々の感情への影響を避けるために、報道しないことを選ぶべきではない。問題の本質を示すことこそが、解決への唯一の道である。メディアや社会が目を背け、沈黙することは、必ずしも良いことではない。的確な角度から慎重に報道し、専門家や心理学者に意見を仰ぎ、問題の根源を探し、政策策定者及び実行者に提言をし、公衆に広く伝えることこそが、メディアの責任である」と書いています(例によって翻訳にあまり自信ありませんが、あしからず)。

その上で、ネット上でアンケートを行い、①深く報道し真相を探るべきだ、②簡潔に報道し、自殺の連鎖反応を防ぐべきだ、③全面的に報道を禁じるべきだ、の三択で投票を行っています。現時点での結果はぜひリンク先を見てみてください。

中国における報道の実情にはあまり詳しくないので、この記事がどういう意図で書かれたものか、勘ぐることしかできません。あれこれ述べませんが、興味深く見ています。

さて、12番目の自殺者については、これまで報道をリードしてきた「南方都市報」が、何故か「新華社によると」などと新華社から引っ張ってきていて、違和感を感じました。

これまでの報道で「南方都市報」等の現地メディアは、これまで自殺が起きるたびに、救急車が工場に入る写真を撮影したり、同じ寮に住む工員などの証言を取ったりとしていました。おそらくは24時間体制でフォックスコン工場の監視をし、工員の中に情報提供協力者を設けていたのでしょう。

では、今回の規制を受けて、今後は、そういった情報に基づく報道は無くなるのでしょうか?おそれくは、中国大陸内では当局の発表ベースでの報道のみが行われることになるのでしょう。

ですが、「南方都市報」等のこれまで本件を追いかけていたメディアは、今後もめげずに監視を続けるのではないでしょうか?そもそも、今回の報道規制についても、しっかりと香港メディアに漏れている(漏らして)いるワケです。そして、記事を読んでみれば、社名は思いっきり書かれていますし、恐らく当局の人間からしたら相当程度情報提供者を特定できるところまで書かれているわけです。

今回の事件がここまで注目を集めた以上、おそらくはこんな形で、香港やシンガポール(あまりチェックしていませんが、もしかしたら台湾も)等を中心として、海外での報道は続くのではないかなと、個人的には思っています(あくまで想像ですが)。

もっとも、フォックスコンの取材協力はより得にくくなるでしょうし(これまでは事件がおきるたびに報道担当者のコメントが報じられていました)、陰に陽に、「人命尊重」の御旗のもとに取材妨害もあるのかもしれません。

今回の事件には個人的に強く興味があってフォローするようにしていましたが、結果として、中国のメディア規制の「放」と「収」の一幕を目撃することとなりました。今に始まったことではないですが、今回のフォックスコン連続自殺事件、これまでの報道の過熱ぶりと、突然のネット記事削除のコントラストには、やはり驚かされました。